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大阪高等裁判所 昭和27年(ネ)588号 判決

控訴代理人は、原判決を取消す被控訴人等所有に係る大阪市南区心斎橋筋二丁目二十六番地の宅地四十坪に控訴人が借地権を有することを確認する被控訴人等は控訴人が右地上に建物を所有するにつき妨げとなる一切の障害を除去すべし、訴訟費用は第一、二審共被控訴人等の負担とするとの判決並に担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において「(イ)罹災都市借地借家臨時処理法の施行前である昭和二十年三月十三日の罹災当時より控訴人は本件土地の賃借申出をしており、右は同法の保護せんとするのと同一趣旨の申出であつて、その後も効力を持続している。尤も被控訴人が第三国人に売却したとの詐欺行為に出たため、控訴人において右申出を一時撤回したが、これは法律上取消し得べきか又は要素に錯誤があつて無効である以上同撤回は当初よりなかりしこととなるところ、同法施行前の申出は亡養田嘉三が他の事由によりこれを拒否したのでないから、同法が施行せられ且つ法定期間の満了と共に承諾と看做される結果、改めて同法による申出がなくとも前示申出は有効として保護せらるべきである。(ロ)仮にしからずとするも、昭和二十二年十月控訴人の長男石川武三等は本件土地上の建物において右嘉三が喫茶店を開業しているのを発見して、直にこれを詰問し且つ処理法による土地賃借の申出をしたのであつて、爾後引続き同申出を反覆したのであるが、嘉三の本件土地使用は第三国人に売却したとの詐欺行為により控訴人の賃借申出を撤回せしめた結果であるから、何等正当な権原に基くものでないのみならず、嘉三が建物を建築して本件土地を使用したのは処理法施行後であつて、しかも第三国人名義を以て建築するが如きは正権原に基くものでない。(ハ)控訴人は本件土地上の罹災家屋を二十余年前より賃借し洋反物商の店舗として且つは家族の住居としても使用していたのであるが、戦災後は已むなく池田市石橋に住居を定めたけれども狭隘のため本件係争の解決を待ち得ずして長男武三が大阪市飛田附近に営業所を設け家族を分散させたのに過ぎないのであるから、控訴人は本件土地を賃借するにつき正当な事由を有するものである。」又被控訴代理人において「(イ)控訴人と被控訴人等の先代養田嘉三との間における賃貸借関係は本件土地上の家屋に関するものであつて土地の賃借権でないため、控訴人が戦災焼跡を整理して借地申出をしたのは借地権ありと誤認した結果であるから、処理法施行前とて控訴人は得心してこれを撤回し右嘉三より整地料を支払わしめ且つ戦前家屋賃借のため提供していた敷金をも取戻したのであつて本件土地には何等の関係もなく、後日に至り制定せられた処理法の保護を受くべき基礎はない。(ロ)又控訴人が借地申出を撤回したのについては、被控訴人側において本件土地を第三国人に不法占拠せられたのを自力回収し犠牲を払つて居住している事実を控訴人に申述べたに過ぎず、虚偽の事実を以て控訴人の申出を拒絶したのでない。仮にしからずとするも、控訴人の借地申出は処理法第二条に基くものでなく、単純な借地申入であつてこれを拒絶し得る場合であつたから、右嘉三より整地料の返還を了して円満解決したのであつて、同人の詐欺行為により控訴人が申出を撤回したものでない。(ハ)昭和二十三年九月十七日右嘉三に到達の処理法第二条に基く控訴人の借地申出当時には、既に被控訴人側において現在の建物の前身であるバラツクに居住していたのであつて、右は昭和二十一年一月第三国人より買受けて居住を継続しその後二回に亘り増築して現在の店舗住宅となつたのであるから、その土地使用は権原に基くものである。(ニ)被控訴人綾子は亡夫嘉三の遺児である被控訴人常二郎、同勝彦を養育するため本件土地上の家屋に居住して袋物商を営み生活しているのであるから、控訴人の本訴請求は被控訴人等の生活を奪う結果となり、正当な権利の行使でなく権利の濫用である。」と夫々補述した外、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

<立証省略>

三、理  由

先ず被控訴人は、罹災都市借地借家臨時処理法(以下単に処理法と云う)第二条に基く土地賃借権設定の有無に関する紛争は同法第十五条第十八条に従い非訟事件手続法により裁判せらるべく、民事訴訟法の定める通常の訴訟手続により審判せらるべきものでない。仮にしからずとするも、右非訟事件手続による裁判を経た後に始めて通常の訴訟手続によることを得べきものであるから、控訴人の本訴は不適法であると抗弁するので、その当否を判断するのに、本訴が処理法第二条に基き係争土地に賃借権の設定あつたことを前提としてその確認並に妨害除去を求めるものであることは、控訴人の主張自体によつて明かであるところ、同法条による土地賃借権の成否につき当事者間に争いがあるか又は成立した賃借権の条件につき協議調わないときは、申立により管轄地方裁判所が非訟事件手続法によりその裁判をすべきものとせられることは、同法第十五条第十八条の規定するところであるけれども、右は同法が罹災者の保護並に罹災都市復興の促進等を目的とする関係上、その処理を簡易迅速に取扱わんとする趣旨に外ならないのであるから、これを以て、民事訴訟法による通常の訴訟手続に従い土地賃借権設定の確認その他を訴求する権利を禁止し、或は通常の訴提起に対し前示申立を前置先行せしめることを定めたものと解することはできない。従つて当事者はその選択により処理法所定の非訟事件手続による申立をすると民事訴訟手続による訴を提起するとは全く任意であると云わなければならないから、本訴は何等不適法でなく、被控訴人の右抗弁は理由がない。

次に、控訴人が戦前以来被控訴人等の先代養田嘉三よりその所有に係る大阪市南区心斎橋筋二丁目二十六番地宅地四十坪の本件土地上に存した建物を賃料一ケ月四百円期限の定めなく賃借していたが、昭和二十年三月十三日戦災により右地上の建物が焼失したこと、右賃貸人たる嘉三が本訴係属中の昭和二十四年七月三日死亡し被控訴人等がその遺産相続人として同人の権利義務一切を承継したことは、当事者間に争いがない。

ところで(一)控訴人は、昭和二十年十二月二十八日附内容証明郵便を以て右嘉三に対し本件土地賃借の申出をし、その後同二十一年一月頃迄に亘り同申出を反覆したが、かかる申出は処理法の施行前であつても同法による申出と同様の効力を認めて保護せらるべきものであるのみならず、当時嘉三においては他の事由によりこれを拒絶しなかつたから控訴人の右申出は同法の施行により法定期間満了と共に同人がこれを承諾したものと看做されるものであると主張するに対し、被控訴人は、控訴人の右申出は昭和二十一年三月二十八日撤回せられたのみならず、処理法施行前の申出であるから同法所定の効力がないと抗争し、そして控訴人がその主張の如き土地賃借の申出をしたこと並にこれを被控訴人主張の如く撤回したことは、双方の認めて争わないところである。尤も控訴人は、右申出の撤回は嘉三の詐欺行為によるものであるから本訴によりこれを取消す、仮にしからずとするも要素に錯誤があるから無効であると云うので、その当否を判断するのに、原審並に当審証人石川信一(原審は第一、二回)同石川武三、同中田敬二の各証言及び控訴本人訊問の結果に原審証人池島勘治郎の証言を参酌すれば、控訴人は本件土地上の建物を約二十年前より敷金二千五百円を差入れて賃借し洋反物商を営んでいたが、前記の如く右建物が戦災により焼失したため、昭和二十年秋頃家屋建築の目的を以て同土地の整地に着手したところ管理人と自称する者よりこれを差止められた結果、当時徳島県撫養町に疎開中であつた土地所有者の右嘉三に対しその遠縁に当る附近の池島勘治郎を通じて本件土地の賃借方を交渉したが、嘉三においては自己使用を理由にこれを拒絶し且つ同年十二月罹災家屋に対する以前の敷金全部を返還せんとして供託した上、更に同二十一年二月頃右池島勘治郎を介して本件土地は第三国人に売却したから控訴人に賃貸し得ない旨を通告したため、控訴人側はこれを真実と信じて遂にその賃借を断念するに至り、同年三月二十八日頃右嘉三より整地費用千五百円の賠償を受けたのであるが、実は嘉三が同土地を第三国人に売却又は賃貸したのでなく、単に当時第三国人が同土地を不法占拠してバラツクを建設していたのに過ぎない事実を窺うに十分であるから、賃借申出の撤回は嘉三の詐欺行為によるものであつて取消し得べく、又は要素に錯誤があつて無効と認めるのを相当とし、右の三月二十八日頃迄における控訴人の土地賃借申出はその効力を失わないものと云わなければならない。

しかし右申出は昭和二十一年九月十五日施行せられた処理法以前のものであるから同法所定の効力を有しないこと明白であつて、しかもこれに対し土地所有者である嘉三より拒絶の意思表示をしていることは右認定の通りであるから、控訴人の同申出に基き双方間に本件土地の賃貸借関係が成立したものと解することはできない。

尤も控訴人は、処理法施行後の土地賃借申出が同法により保護せられるのに拘らず、これと同一趣旨の申出を同法施行前であるからとてその保護外に置くべき理由がないと主張するが、元来家屋の賃貸借においてその家屋が滅失したときは同賃貸借関係は当然消滅に帰し、その敷地に対しては家屋賃借人は何等の権限を有するものでなく、土地所有者との間に別に合意が成立するのでなければ他に優先してこれを使用し得るものでないこと勿論であるところ、処理法は今次戦災に際し罹災家屋賃借人の保護と土地所有者の利益を調整する目的の下に、同法第二条第一項において「この法律施行の日から二ケ年以内に」限定の上土地賃借申出につき同法所定の効力を附与したのであるから、これと同一趣旨の申出であるとしても、同法施行前のものに対して迄遡及拡張してこれに同様の効力を認め若くは同法の施行を待ち同様の効力を生じたものとするが如きは、別段の規定がない限り、到底許されないところと解すべく、控訴人の右主張は採用し難い。

又(二)控訴人は、その後昭和二十二年十月長男石川武三等は本件土地上の建物において前記養田嘉三が喫茶店を開業せるを発見し、直にこれを詰責し且つ処理法による土地賃借の申出をしたのであつて、爾後引続き同申出を反覆し最後に念のため同二十三年九月十四日朝書留速達内容証明郵便を差出して同日中に右嘉三に到達しているから、法定期間の満了と共に同人においてこれを承諾したものと看做さるべきであると主張するので、その当否を判断するのに、成立に争いない甲第一号証並に前掲証人石川信一、同石川武三、同中田敬二の各証言及び控訴本人訊問の結果によれば、控訴人の三男石川信一等が昭和二十二年十月頃偶々本件土地の前を通り掛り右嘉三が同地上のバラツクにおいて喫茶店を経営しているのを発見して驚き、控訴人と協議の上、長男石川武三等は嘉三に面会して同人が先きに本件土地を第三国人に売却したとの虚偽の事実を控訴人に告げたことを詰問し土地の賃借方を懇請したところ、嘉三はこれを拒否して相手にせず、よつて控訴人においてはその後交渉を重ね最後に昭和二十三年九月十四日早朝大阪中央郵便局に本件土地の賃借申出を記載した書面を嘉三に宛て書留速達内容証明郵便を以て差出したことが推認せられる。

ところが原審証人小川与吉(第一、二回)同池島勘治郎の各証言及び原審並に当審における被控訴人養田綾子本人訊問の結果を綜合すれば、前記嘉三は昭和二十一年一月頃疎開先の徳島県撫養町より大阪に復帰し、当時第三国人が本件土地を不法占拠して建設していたバラツクを買収取得した上、家族と共に同所に居住し、その後間もなく同年春頃より当初は海産物漬物等の販売を、次で喫茶店を更に現在の袋物商を営んでいるのであつて、その間二回に亘り右バラツクに増築を加えて店舗住宅とし、嘉三死亡後はその妻子である被控訴人等が親族と同居し合計十二名は右営業によつて生計を立てていることを認め得るのであつて、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そして処理法第二条第一項但書によれば、当該土地を権原により現に建物所有の目的で使用する者があるときは土地賃借の申出をすることができないと規定し、土地の正当な現使用者は罹災家屋の賃借人よりも重く保護せらるべしとするのであるが、右は土地所有者が自ら建物を築造した場合を含むものと解すべきであるから、前記認定の如く、控訴人が土地所有者嘉三に対して賃借申出をした昭和二十二年十月頃当時には、右嘉三は既に本件土地上の建物を所有してこれに居住営業し同土地を使用していたのである以上、控訴人の前示申出又はその後の申出については凡べてその効力を否定せざるを得ない。

控訴人は、前記嘉三の本件土地使用は第三国人に売却したとの詐欺行為により控訴人の賃借申出を撤回せしめた結果であるのみならず、処理法施行後しかも第三国人名義を以てバラツクを建築するが如きは、何等正当な権原に基くものでないと主張するが、上来説明の如く、右嘉三は当初自己使用の理由を以て控訴人の土地賃借申出を拒絶すると共に昭和二十一年一月頃当時不法占拠をしていた第三国人に交渉して同人よりその建設したバラツクを買収取得し、爾来引続き自己がこれを使用しながら増築したのであるから、控訴人の前示申出を撤回せしめたことが不当であるとしても、少くとも処理法施行当時においては嘉三の本件土地使用が正当な権原に基くものでないと云うことはできないのであつて、控訴人の右主張は当らない。

さすれば、本件土地について処理法第二条による控訴人の賃借申出により適法な賃貸借関係が成立したことを前提とする控訴人の本訴請求は排斥を免れないのであるから、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。よつて民事訴訟法第三八四条第八九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 三吉信隆 萩原潤三 小野日常太郎)

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